私の仕事から趣味までのCADCG活用法

<仮想/現実 と 抽象/具象 からの考察>

by
薄 俊 也(Shunya Susuki) 2004年4月
 福岡市役所の建築行政に携わって23年。仕事でのコンピュータとの関わりは、「建築確認業務の電子化」に関するレポート(後の「建築確認支援システム」)を作成した1985年度の建設省建築指導課派遣時に遡ります。その後、アジア太平洋博覧会福岡ソフトリサーチパークの建設に携わりましたが、本格的にCADやCGを使い始めたのは、歌舞伎やミュージカルなどを上演できる劇場「博多座」の建設時(1995〜99年)です。
彫刻(現実)の経験を仮想空間作りに役立てる
 当時、新築されたばかりの公共ホールには、舞台を見づらい客席や照明室があり、不評でした。そこで博多座では、事前にCGソフトで仮想の劇場空間を作成。最初は、平均的な日本男性の体型をかたどったモデルを作成しましたが、1,500人分となるとデータが重くなるため、輪郭を保ちながらポリゴン数を減少させて抽象化し、30種ほどのモデルに集約。この抽象化過程には、趣味で続けている彫刻の作業の経験が役立ちました。
 仮想空間上で客席から舞台までの視線のチェックを行ったことで、どこからも見やすい劇場ができ上がったほか、手戻り工事が回避され、コストも縮減できました。さらに、周辺街区を含めて製作したCGアニメーションは、関係者間の合意形成にも威力を発揮。これらのデータは、CALS/EC(公共事業支援統合情 報システム)導入/推進に向け、CALS/ECの目的の1つであるコスト縮減や説明能力向上の例として、再利用しています。
↑博多座周辺の並木の検討用CG
 多数の関係者との調整が必要だったアジア太平洋博覧会などの経験から、住民との合意形成が不可欠な都市計画レベルの大型プロジェクトほど、その計画には社会性や協調性が求められることを学びました。一方、絵画/彫刻的なレベルになるほど、個人の独創性が発揮できます。CAD/CGが素晴らしいのは、そのどち らも表現できるところ。将来は、映画『マトリックス』のように、インターネットを通じてプロジェクト計画案の中に入り込み、仮想体験できる仕組みが求められていくと思います。大きさを自由自在に設定でき、内側から細部のシミュレーションも可能なCAD/CGは、今後、さらに重要視されるでしょう。
仮想空間における検証を凧作り(現実)に役立てる
 彫刻の経験(現実)がモデリング(仮想)に役立ったのとは反対に、モデリングの経験は凧作りの形状チェックに役立っています。凧は、具象化するほど竹籤や細木材の重量がかさみ、飛ばなくなります。モデリング時に具象化しすぎてデータが大きくなり、パソコンが動かなくなるのと同様です。新作の鯨凧製作時にも、モデリングソフトで形状チェックを行いました。また、大気汚染を何とかしなければと始めたソーラー電気自動車製作もすでに4台目。製作中の新車でも、モデリング/レンダリングを繰り返しながら形状を検討しています。
創作凧:天女(天の羽衣伝説より) 創作凧:鯨 ソーラー電気自動車S-5
 CAD/CGを活用するポイントは、パソコンなどが進歩してもむやみにデータを大きくせずに、むしろ抽象化すること。一般的に無限大/無限小のレベルほど、仮想な世界として抽象的手法が容認されますが、ハードウェアの進歩に伴い、人物や建物など、身の回りの事象はより一層の具象的手法が求められます。この具象的な現実世界に抽象的な手法を加味していくことがCAD/CG活用の鍵。今後も絵画/彫刻などのアート分野に触れながら、その抽象化の手法を模索していきたいと思います。
CAD&CGマガジン2004年6月号乃木坂倶楽部に掲載
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