第1回福岡市景観エッセー応募作品集より
(福岡市都市整備局都市管理部都市景観室 平成10年2月発行)
20.室見橋からの景観

応募者:薄 俊也(すすき しゅんや) 43歳
      西区豊浜

 室見橋からの眺めはおもしろい。南には背振山、油山等の自然があり、北にはシーサイドももちの高層建物群がある。同じ場所で一度に福岡の対照的な景観が楽しめる。あらためて思い返すと、最近の日常生活の中で景観を楽しむ機会は少なくなってきている。私の場合、主な交通手段は地下鉄のため外の景色を見ることができないし、仕事もパソコンに向かうことが多く外に目をやることはあまりない。そのような日常生活のなかで、室見橋から見える雨上がりの背振山系の美しさと、福岡タワーやシーホークホテル等の近代的な夜景は格別である。

 私の住む豊浜団地は陸の孤島と呼ばれていた。その理由は、団地が幹線道路より海側に2キロぐらい引っ込んでいて、かつ当時は幹線道路にたどり着くには、室見川沿いの細い生活道路を通るか、愛宕山の西側を切り開き造られた急勾配の道路を迂回するしかなかったからである。しかし、この陸の孤島にもアジア太平洋博覧会を契機に転機が訪れた。まず、室見川に橋が架かり、団地の前の道路が、シーサイドももちと直結した。周辺の埋立地には大きな団地が次々に完成し、同時に団地の前の道路は幹線道路に昇格した。その後、あっという間にその沿道に大型店舗が立ち並んだ。

 そして今、シーサイドももちから室見川を渡ってきた高速道路の延長工事により、室見川沿いの道路脇の家々はすべてなくなってしまった。室見橋から北を見ると、その高速道路はシーサイドももちの近代的景観の延長として目に映る。そして、それは人々の見慣れた風景すなわち記憶の源を飲み込んでいくかのようでもある。その時の流れを景観の変化として感じるとき、室見橋からの眺めは、また一興である。
室見橋から南側を望む。背振山系が見える。
室見橋から北側を望む。シーサイドももちの高層建物群と高速道路が見える。

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